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羽毛布団は罪深い
あぁ今日も学校を寝過ごしてしまった。大学という場所の自由さは俺がずっと夢見てきたものであるのに、結局俺をこうして苦しめる。始めのうちは浮かれていたっけ。一秒一秒変わってゆく世界の中にいながら、その気になれば一日中寝ていられるこの優越感に喜びを感じていたっけ。

ただ、その喜びは長くは続かなかった。その自由さはいつしか俺を焦らせるようになった。この有意義な時間をこんなにも無駄に過ごしていいものかと思わせるようになった。

そう、今になると判る。前は大学という、こんないい加減な場所から社会に出て本当にやっていけるのだろうかと思っていた。しかし実際には、社会に出る一歩前で自分を見つめなおし、改めて考えさせる絶好の場。ただそれは全て個人に任せられる。只々なんとなく毎日を過ごし、それなりに勉強し、そのまま大学を後にする事もできる。そう、俺らはもう大人だ。俺は日本の管理教育に不平を洩らしながらも、結局その状況に甘んじていた。しかしこれからは、行動の殆どを大人の管理下に置き過ごしてきた学生時代を経て、俺らは自ら道を切り開かなければならない。

そんな俺の決心を鈍らせるもの・・、それは布団。あぁ世の中において最も罪深きはこの羽毛布団ではなかろうかとすら思えてくる。この肌寒い季節にこの憎憎しいまでのヌクヌク感・・。手放したくない・・。そう、正にこのヌクヌク感は親元で甘えを許された学生時代、そしてこの布団をはぎ棄て感じる肌寒さは、これから世間の荒波に放り込まれ、世知辛い世の中を渡り歩くこれからの人生を思わせる。 もう少しヌクヌクしていたい・・。しかしそうもいかない。俺は意を決してその羽毛布団をはぎ棄てる。

もう日が照りすっかり暖かくなった午後2時に。

別にいいじゃん。だって俺まだ大学2年だし。まだ後3年あるし。・・・あっヤベッ。もう12月だから後2年ちょっとしかないじゃん。ミスった。よし、明日からは午後1時に起きるようにしよう。





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