今日締め切りのレポートを何とか終わらせ、提出の為学校へ向かった午後12時。時間が時間なだけに、上り電車の中は閑散としていて、ドア付近の座席に腰を下ろした俺の横には、神経質そうなおばさんが訝しげな顔をして座っていた。
次の駅へ着くと、つい先程まで立ち話をしていたと思われる奥様二人組が乗り込んできて、まだ話し足りないといった様子で電車の中でも話を弾ませている。俺の横に座っているおばさんは、いかにも迷惑そうに二人の方を見ていた。奥様二人組の一人が席に座るも、その車両には二人が並んで座れるだけの空きはなく、二人はこんな車内でよく見られる席の譲り合いをしている。
ところへ、そのやり取りを見た一人の女性が、席を譲ろうと立ち上がった。しかし、この二人は悪いからと、席を立とうとした女性をなかば無理やりにまた同じ席へ座らせた。
それを見て俺は思う。どちらも親切心からの行動である事は間違いない。しかし、席を譲ろうとした女性の親切心を無駄なものにしてしまったこの行為はいかがなものか。俺はこんな時人に席を譲るほど人間が出来てはいないが、この女性の心中は察する事が出来る。きっと彼女にしてみれば、ここで席を譲る方が、元の場所へまた座るより、余程気分がいいはずだ。席を譲れば彼女は親切な行為をした事に満足感を覚えるはずだし、また同じ席に座らされれば自分の親切心からした行動が無駄になった事を残念に思うはずである。電車の中、みなさんの前に一人のお年寄りが立っていて、席を譲ろうと試みた際、それが拒絶された場合を考えて欲しい。彼女の心境がみなさんにもお判りいただけるだろう。
この二人の存在で急に騒々しくなった車内で、俺は一人、そんな人間の人間らしきやり取りを見て、人間を思った。